• 配信日:2020.08.21
  • 更新日:2023.09.01

オープンイノベーション Open with Linkers

日本のモノづくり AIと人間の仕事
ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社締役CSO 夏目徹氏に聞く2

※本記事は、Innovation by Linkersに過去掲載した記事の再掲載記事となります。

ライフサイエンスの研究現場で活用される汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」を開発したロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社(以下、RBI社)。

前回は同社が開発した「ヒューマノイド」、そしてAIがどのような価値を生み出すのか等について、産業技術総合研究所・創薬分子プロファイリング研究センター長兼RBI社取締役CSO夏目徹氏にお話を伺いました。

今回は引き続き、AIの進化と共に変化する日本のグランドデザインについて語っていただきます。

前回の記事も併せてぜひご覧ください。

日本のものづくりが抱える課題と展望




左:ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 夏目様  
左:ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 夏目様


日本は「成功体験」から脱却できていない

リンカーズ

日本のものづくりの現場が目指すべき方向性についてどう思われますか?

RBI 夏目様

今後、日本はソリューションビジネスを主流にしていかなければなりません。


RBI 夏目様:必要なのは、既存のものではない未知のビジネスに入っていくのだという意識ですね。ものづくりのメーカーはどうしても既存のビジネスを想定したうえでデータを収集して仮説を抽出し、それに当てはめて販売戦略を考えてしまうところがあります。

そのため、まっさらなゼロの市場に打ち出していくということが難しいことは事実です。

リンカーズ:日本のメーカーは新たな価値を見出すことが苦手である、ということですか?

RBI 夏目様:いや、それよりも過去の「成功体験」から脱却することが難しいではないでしょうか。日本の産業界は「モノ」を売ることで経済成長していった経緯があり、これがソリューションビジネスへの方向転換を妨げているのではないかと思います。

失敗から学ぶのは簡単なのですが、過去の成功体験から脱却するのは難しいんです。

海外メーカーであれば人材のサイクルの速さ、そして多様性があるため、こうした状況から脱却できます。それまでに成功体験を持っていない新しい人材が、どんどん企業に入ってくる。

例えばMBAを取得したばかりの怖いもの知らずの若者が、次々に新しいことを始められる土壌があります。つまり彼らには先入観がない、そこは強みでしょう。

では、逆に日本はどうでしょうか。高度成長期にあまりにも成功し過ぎて、思考停止に陥ってしまっているというのが私の印象です。

輝かしい成功の後に「その後どうするか」という戦略を練るためのトレーニングができなかった、ここが問題でしょう。しかし、もともと日本のメーカーは新しいアイデアを生むことは得意だったはずです。

リンカーズ:当社も企業のマッチングを行っているのですが、どうしても企業と企業の関わり合いは元請け・下請けの構造になりがちです。これは何故でしょう?

RBI 夏目様:B to Bにおける企業の付き合いでは、どうしてもお互いの義務範囲をしっかり決めておかなければいけないという前提があります。だから、仕様書を取り交わしてきちんとやるべきことをやるということに終始してしまう傾向がありますね。

下請け企業がこういう関係構造から脱却するためには、一度自分たちが事業主となり、B to Cのビジネスを始めてみることも一つの手かもしれません。その際に自分たちに欠けているものは、すべてアウトソーシングしていくのです。

よく「日本企業の技術力はすごい」という話がありますが、それゆえに日本の製造業の弱点は、自らのビジネスを「技術」から発想していることだと思います。

技術から発想しているのでは「市場」は生まれません。よくニーズを掴むことが大切だと言われますが、本当のニーズはなかなか見えてこないもの。

それを自ら見つけ出して、どんなソリューションがあるかを考える。そこではじめて、実現に必要な技術をトップダウンでインテグレーションすることが求められます。

ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 夏目様
ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 夏目様

日本企業と海外企業との違い

リンカーズ

海外企業と日本企業とでは、具体的にどのような体質の違いがあるのでしょうか。

RBI 夏目様

日本人は、すぐ網羅的な思考に陥ってしまいがち。何かを決断する際に、多くのエネルギーを費やしています。

RBI 夏目様:日本企業ではプロジェクトに取り掛かる際、まずしっかり調査・議論を尽くしてから動き出します。しかし海外の企業ではリーンスタートアップやPDCAサイクル、スプリントといった、無駄を省いてスピーディにプロジェクトを進めるビジネスのスタイルが定着していますよね。

何か面白そうなアイデアがあったら、とりあえず小規模に試してみる。結果的に上手くいかなければ、すぐそこでストップするわけです。そしてさらに次の仮説に移っていくという、行動を伴った仮説検証を行う土壌があります。

日本企業は「やる・やらない」の決断にエネルギーを使い過ぎです。思いついたらすぐやってみて、駄目なら次に行く。それを繰り返すうちに市場や需要が見えてくるものです。

そのために必要な要素を増やし、付け加え、あるいは不要な要素を減らし、なくす。そうしていくうちに、決定的な差別化やオリジナリティを導き出す方向が見えてくるのではないでしょうか。

リンカーズ:日本の中小企業は他者への差別化として技術の研鑽に力を入れる傾向がありますね。

RBI 夏目様:研鑽を続けることによって、企業がノウハウを積み上げていくことは重要です。しかし、それに囚われて「技術」を起点に発想してしまうのはいただけません。

とんでもない発想の飛躍があって、そこに新しいなにかが生まれる。これがイノベーションだと思います。

私たちもヒューマノイドの製造に関しては、徹底的に技術を磨き、世界にアドバンテージを示そうと思っています。しかしロボットの「使い方」に関しては、ロボットメーカーのように「今ある技術をいかに使うか」という発想に囚われないように注意しているんです。

日本に真のイノベーションをもたらすために



とにかくやってみる、ダメなら次へ。試行錯誤が切り口

リンカーズ

日本の企業がイノベーションを起こすためにはどんな具体策があるでしょうか?

RBI 夏目様

小規模な試行錯誤を繰り返すことができる環境を作り出すことが重要です


RBI 夏目様:例えば大企業でも社内に小さな事業部を作り、そこで企業全体の流れとは別に小さなトライ&エラーを繰り返していくという方法が考えられます。すでにそういう方策を取り入れて成功している企業は、いくつかあるのではないでしょうか。

リンカーズ:RBI社が新たな事業に取り掛かる際、パートナー企業を選ぶにあたって重視されている点は何でしょうか。

RBI 夏目様:と言いますか、パートナー企業のリストを作って「どこと組もうか?」とじっくり考え込むようなことはしていません。「この企業がいいな」と思ったら組む。そして、ダメだったら次の企業と組む。その繰り返しです。結果、もしかしたら同業の企業すべてと関係することになるかもしれません。

しかし、一つの企業に決めるまでの意思決定に伴う、時間のロスやストレスはなくなりますよね。一つの企業との関係が失敗するたびに、私たちの経験値も上がっていきます。これは次のパートナー選びをする際に役立つはずです。

日本人のマインドとして、「ムダなことはしたくない」という意識がすごく強いと思います。誰もが子どもの頃は「失敗は成功のもと」と学ぶのに、いざビジネスの手法を学ぼうとしたら「失敗しない方法」ばかり教えられるのが日本の風土でしょう。

失敗は決して無駄ではなく、次に活かすための経験です。むしろ、何も生み出さずに「失敗しない方法」を学んでいる時間の方が避けるべき無駄ではないでしょうか。

また、私は「成功は失敗のもと」とも考えています。つまらない成功を収めてしまうと、そこに慢心して微妙な市場の変化についていくことができなくなりますから。

リンカーズ:精密機械メーカーなどで今後、医療機器を始めとするライフサイエンス分野に参入しようとする企業にヒントとして提示したいことはありますか?

事実、創業者から事業を継承した企業では、既存の事業に限界を感じて新規分野に参入しようとしている企業が数多くあります。


RBI 夏目様:カスタマーの視点に立つことが第一条件ですね。一方で、事業を継承された二代目経営者の方々は、意外と成功されていることが多い。親の事業方針に対して、ずっと否定的だったことが影響しているのかもしれません。

これまでの成功を否定できるという強みは、大きいのではないでしょうか。企業の中にいながら客観的に、異質な視点から事業を見てきたといことが、新規事業に参入するにあたってプラスになるケースは多いと思います。

AIと手を取り合い、人間の仕事に進化を



ロボティック・バイオロジー・インスティテュート株式会社 夏目様

人間の機能拡張・生産性拡大のためにAIがある

リンカーズ

AI技術に注目する企業も多いですが、使い方を誤って事業として成功していないケースも数多く見られます。こうした現状に対して、思われることはありますか?

RBI 夏目様

ただ単に、AIとロボットを人に置き換えてはいけない、ということです。


RBI 夏目様:単純に人とロボットを置き換えても、双方に幸せはもたらされません。よく「AIと人間どちらが優れているか?」といった話題が挙がりますよね。

これはとても分かりやすい反面、本質を突いていません。AIもロボットも、人間の機能拡張のためにあると捉えないといけない。

人間がAIとともに働くことで、個人の生産性が上がるという認識が必要です。単にAIの能力が人間を超越したら、その仕事は人間からAIに置き換えられるという図式を作らないことです。

リンカーズ:今の日本におけるAIと人間の関係について、どう感じられますか?

RBI 夏目様:あまりいい方向に行っているとは思えないですね。例えば、将棋でAIが人間のプロ棋士と対局したとします。その結果、単純にAIが勝ったか人間が勝ったか問題で終わってはいけません。

もしAIが勝ったなら、人間の名人とAIが手を組んで対局すれば、これまでにはないような打ち手が生まれるかもしれない。

つまりどんなAIよりも、どんな名人よりも強くなることができる。これが重要です。これはライフサイエンスの分野でも同じこと。

ロボットが再現的にデータを出すことに注力してくれれば、人間は立案や評価、さらに新しいアイデアを生み出すという仕事に専念することができるでしょう。そうすることで、研究者の生産性が飛躍的に向上します。

私たちが今目標として掲げているのは「在宅研究」です。当社のロボットはPCから実装されているため、インターネットを経由してリモートでコントロールすることができます。

そうして研究作業を完全に自動化してしまえば、もう研究者は研究室に行く必要すらなくなりますよね。

また、研究者がどこに居住していようと問題はありません。人間が判断しなければならない局面では、モバイルにロボットがアドバイスを求めるようにします。自宅から研究作業をコントロールできるとなると、子育て中の女性研究者の活躍も期待できるでしょう。

こういうことからオープンサイエンスが実現します。これまでは研究者の技術や経験に頼っていた複雑で困難な実験も、ロボットが正確に確実に行えるようになる。

そうすると、アイデアさえあれば高校生でも研究に参加できるようになるかもしれません。あるいは実験を行う体力を失った高齢の研究者も、研究に復帰できるかもしれない。

そうすれば、誰もが研究に携わることができます。これは人材活用の面から見ても有効です。

リンカーズ:まさにAIがもたらす「働き方改革」ですね。

RBI 夏目様:そうです。日本はこれから、そういう働き方をデザインしていくべきだと思います。そのための人材はたくさんいるはずなのに、チャンスが与えられていないのが現状ですね。

今の日本社会は多様化していて、飽和状態にあります。かつて日本は、国民の意思統一を図ってものすごい生産性を発揮していました。欧米に追いつこう、そして追い越そうという目標がクリアだったこともあります。

現在、国民のコンセンサスを形成することは大変ですよね。しかし人々が多様化している中では、個人それぞれの方向性に対する許容度を高めていくという手もあります。

そこで誰もが「共感」できる社会のあり方、ものづくりへのスタンス、生産性の高め方の方向性を探っていく。

「共感」できる価値観を示すことができたら、誰もが各分野でバラバラに働いているように見えながら、全体的には一つの方向に向かってものづくりを進めていくことができるのではないでしょうか。そうすれば、日本はすごく生産性の高い国になると思います。

リンカーズ:面白いことをやっている人たちの活動がもっと可視化されれば、それに共感した人々が集まってくる。そういう方向で世の中が活性化していくわけですね。

RBI 夏目様:AIやロボットを活用していくことで、「面白いこと」が仕事になっていくと思います。そして、仕事に対する概念も大きく変わってくるはずです。

極端な話、事業性がない「仕事」が生まれてくる可能性だってあるでしょう。生産性さえ高まれば、まずお金のために働く仕事というものがなくなる。

そうすれば、人は事業として成り立たなくても「面白い仕事」や「人に喜ばれる仕事」ができるようになります。そこに価値が生まれ、社会が回っていけば、これは大きな進歩ですよね。

リンカーズ:楽しみな展開ですね。本日はありがとうございました。

RBI社取締役CSO 夏目徹氏からの学び


日本のグランドデザインについて「日本は成功から脱却していない」という指摘は刺激的ですが、この国の停滞感の原因の一面を捉えています。とりあえず、やってみる。だめなら次へ。

意思決定に時間と労力を掛けるよりは、失敗を続けて経験値を高めるほうが有効であるという夏目CSOのポリシーは、新しいものに参入しようとする企業経営者にとって大きなヒントになるのではないでしょうか。